「あの客にはもう来てほしくない」と思っていても、入店を断ることが法的に問題にならないか、どう伝えればトラブルを避けられるのか判断できず、対応に悩む店は少なくありません。
そのまま判断を先送りにすると、迷惑行為への対応が続き、現場のスタッフに負担が積み重なります。
この記事では、出禁という措置が何を根拠にしているのか、誰がいつどう伝えるのか、出禁を告げた相手が再び来店したときにどう動くのかを解説します。
飲食店の出禁とは?
出禁は法律上の制度ではないため、どのような措置なのか分かりにくい部分もあります。
まずは、出禁の意味と法的な根拠を解説します。
出禁とはどのような措置か
出禁は「出入り禁止」の略で、特定の人物に対して店舗への立ち入りを断る措置を指します。
店によって扱い方は異なり、期間を定めずに断る場合もあれば、一定期間に限る場合や、特定の条件を付ける場合もあります。
何をもって出禁とするかは店が決めるもので、統一された定義があるわけではありません。
出禁に期間を設ける場合は、期限後の扱いまで決めておくことが大切です。
期限を設けない場合は管理しやすい一方、相手の反発を招くことがあります。
一定期間に限る場合は、期限後の再来店を認めるかどうかも決めておきましょう。
出禁が認められる法的な根拠
出禁の法的な根拠としては、契約自由の原則と施設管理権があげられます。
契約自由の原則とは、誰と契約を結ぶかを当事者が自由に決められるという考え方です。
飲食店と客の間でも、店側が特定の相手との契約を断ることは認められます。
施設管理権とは、施設の管理者が利用方法や立ち入りについて一定のルールを定められるという考え方です。
飲食店でも、店舗を管理する立場から、特定の人の立ち入りを断ることが認められる場合があります。
ただし、契約自由の原則や施設管理権があるからといって、どのような出禁でも認められるわけではありません。
適切かどうかは、出禁とした理由や状況によって判断されます。
出禁にできる正当な理由の例
飲食店で出禁を検討するケースとしては、暴力や暴言、ほかの客への迷惑行為、器物の破損、代金の不払いなどがあげられます。
共通しているのは、その行為が店の営業や他の客、従業員に具体的な支障を与えているという点です。
特定の客が周囲に迷惑をかけている場合、出禁も含めて対応を検討しましょう。
出禁が問題になり得る場合
一方で、国籍や性別、外見など、本人の行為とは関係のない特徴だけを理由に入店を断ることは、差別的な取り扱いとして問題になる可能性があります。
特に、障害を理由とする不当な差別的取扱いは、障害者差別解消法で禁止されています。
出禁を検討する際は暴力や暴言、迷惑行為など、実際に起きた行為をもとに判断することが大切です。
適法かどうかは個別の事情によって異なるため、判断に迷う場合は弁護士に相談してください。
飲食店の出禁の伝え方は?
出禁を伝える際は、内容だけでなく、誰が・いつ・どのように伝えるかも大切です。
伝え方によっては相手とのトラブルにつながる可能性があるため、出禁を伝える方法やタイミング、注意点を解説します。
出禁を伝える方法と記録の残し方
出禁を伝える方法は、口頭、書面の交付、メールやメッセージなどの電子的な方法があります。
いずれも通告として意味を持ち得ますが、後から「言った、言わない」の争いにならないよう、記録に残る形が望ましいです。
口頭だけで済ませる場合でも、伝えた直後に日時と内容を業務日誌に書き残しておけば記録になります。
相手の連絡先を把握していない場合は書面の交付が難しいため、口頭で伝えたうえで店側の記録を残しましょう。
書面にする場合は、対象となる方の氏名、対象店舗、出禁とする理由、期間、店側の連絡先を記載します。
理由の欄には、感情的な評価ではなく、いつ何が起きたかという事実を書きます。
伝えるタイミングと場所
相手が興奮している最中の出禁通告は避けましょう。
言い争いに発展する可能性があるため、会計時や退店時など、相手が落ち着いているタイミングを選んで伝えます。
場所についても、ほかの客に見聞きされにくい場所へ移動してから伝えます。
人前で断られたと感じると、相手の反発が強まる可能性があるためです。
この配慮は相手のためだけではなく、店内の空気とほかの客を守るためでもあります。
出禁は店長や責任者から伝える
アルバイトや入って間もないスタッフに、出禁の判断や通告を任せることは避けましょう。
現場の判断だけで出禁を告げると、店として判断の根拠を説明できなくなるおそれがあります。
責任者が不在の場合の対応もあらかじめ決めておき、その場では通告せずに経緯を記録し、後日責任者から伝えるなどの方法を取りましょう。
出禁を伝える際の注意点
出禁を伝える際は、相手そのものを否定するのではなく、問題となった行為と、その行為によって生じた影響を具体的に伝えます。
たとえば、「そういう方はお断りしています」ではなく、「◯月◯日に〇〇があり、ほかのお客様のご利用に影響が出たため、今後のご来店はお断りします」と伝えるのが理想です。
事実をしっかりと伝えることを意識しましょう。
出禁の記録を残して店内で共有する
出禁を決めた経緯、対象となる方の情報、通告した日時と方法、対応した従業員の名前を記録します。
防犯カメラの映像がある場合は、該当する日時も控えておきましょう。
これらは再来店時の対応の根拠になります。
ただし、記録した情報は目的の範囲内での利用にとどめます。
保管の方法と、店内で共有する範囲を店のルールとして定めておいてください。
写真を店内に掲示したり、必要な範囲を超えて従業員間で共有すると、権利侵害につながる可能性があります。
飲食店に出禁の客が再来店したときの対応
出禁を伝えた客が再び来店した場合、どの段階で退去を求め、必要に応じて警察へ連絡するのかを事前に決めておくことが大切です。
ここでは、出禁の客が再来店したときの対応手順を解説します。
再来店したら責任者から退去を求める
すでに出禁を伝えている相手であることを確認したうえで、責任者が退去を求めます。
ほかの客から離れた位置で、可能であれば複数名で対応しましょう。
一対一で対応すると、言い争いになったり、対応した従業員の負担が大きくなったりするおそれがあります。
このとき、あらためて理由を長く説明する必要はありません。
すでに出禁を伝えている旨を説明し、退店を求めます。その後は、必要以上に理由を説明したり、議論を続けたりしないようにしましょう。
退去に応じない場合
出禁を伝えている相手が再来店し、退去を求めても応じない場合は、不退去罪(刑法130条)が成立する可能性があります。
ただし、実際に罪に当たるかどうかは個別の状況によって判断されるため、店側で断定することはできません。
退去を求めても応じない場合は、店だけで解決しようとせず、警察への通報を検討しましょう。
通報は相手を罰することが目的ではなく、その場の安全を確保し、警察に対応を求めるための手段です。
通報の基準を決めておく
退去の求めに応じない、大声を出す、暴力や脅迫に及ぶなど、どのような場合に通報するかを具体的に決めておきます。
身の危険を感じる場合は、退去を求めた回数にかかわらず、安全の確保を優先してください。
通報の基準を決めておけば、従業員がその場で警察を呼ぶべきか迷いにくくなります。
やってはいけない対応
体を押して外に出す、腕をつかんで引っ張る、私物を取り上げるなどの実力行使は避けましょう。
相手に問題のある行為があったとしても、状況によっては、店側が責任を問われる可能性があります。
また、SNSに相手の写真や実名を投稿することも避けてください。
名誉やプライバシーを侵害するおそれがあり、店の信用を損なう可能性もあります。
飲食店を出禁にされた場合はどうすればよい?
ここでは、出禁にされた場合の考え方や対応について解説します。
理由を告げられないことはあるのか
店が入店を断る際に、理由を説明する法的な義務はありません。
そのため、理由を告げられないまま出禁になる場合もあります。
理由を詳しく説明すると、やり取りが長引いたり、トラブルに発展したりする可能性もあります。
理由の説明がなかったからといって、それだけで不当な出禁と判断されるわけではありません。
出禁に納得できない場合はどうする?
正当な理由がなく、国籍や性別などを理由に出禁にされたと考えられる場合は、不当な扱いとして問題になる可能性があります。
出禁が不当なものではないかと感じた場合は、自分だけで判断せず、弁護士やお住まいの地域の消費生活センターに相談する方法があります。
相談する際は、いつ、どこで、どのように出禁を告げられたのかを整理しておきましょう。
出禁の理由に心当たりがある場合
出禁の原因として思い当たる行為がある場合は、まずその行為について謝罪するのがよいです。
ただし、謝罪によって必ず出禁が解除されるとは限りません。
再来店を認めるかどうかは店側の判断に委ねられており、客側が解除を求めても受け入れられるかは別問題です。
再び利用したい場合は、店の判断を尊重したうえで、再来店が可能かを確認してください。
飲食店が出禁を決める前にできる対策
出禁を決める前に、店内ルールの周知や注意・警告によって、迷惑行為を防いだり改善を促したりできる場合があります。
ここでは、出禁を検討する前に店側でできる対策を解説します。
ルールを先に掲示しておく
利用時間の上限、飲食物の持ち込み、店内での撮影、団体利用の扱いなど、店として認めない事柄をあらかじめ掲示しておきます。
何も示していない状態で個別に注意すると、「自分だけ言われた」という反発を招きやすくなります。
注意や警告を重ねてから出禁を検討する
状況に余裕がある場合は、個別の注意、あらためての警告、そのうえで出禁という段階を踏む方法があります。
それぞれの対応を記録に残しておけば、出禁が突然決まったものではないことも説明しやすいです。
また、最初の注意で行動が改まるケースもあります。
出禁は客をひとり失う判断でもあるため、店への影響も無視できません。
注意や警告をしても迷惑行為が改善されない場合は、出禁を検討します。
対応の経緯を残しておくことで、店内でも判断の理由を共有しやすくなります。
従業員を守る対応ルールを決める
対応はできるだけ複数名で行い、出禁にするかどうかなどの判断は責任者に任せるルールを決めておきましょう。
対応後は、状況を確認したうえで従業員に声をかけ、必要に応じて業務を交代するなどのフォローも大切です。
こうした役割分担をあらかじめ決めておくことで、従業員が一人で抱え込む状況を防ぎやすくなります。
飲食店の出禁に関するよくある質問
ここでは、飲食店の出禁に関するよくある疑問を解説します。
理由を告げずに出禁にできますか?
出禁の理由を説明する法的な義務はありません。
ただし、店側では出禁とした理由や経緯を記録し、必要に応じて注意や警告を行ったうえで伝えると、トラブルを防ぎやすくなります。
詳しく説明する必要はありませんが、店内では判断の根拠を共有できるようにしておきましょう。
出禁の客が来店したら警察を呼んでいいですか?
出禁を告げている相手に退去を求めても応じない場合は、通報も選択肢のひとつです。
その場の安全を確保することが目的であり、判断を店だけで抱えないための手段でもあります。
どの状態になったら通報するかを、事前に店のルールとして決めておいてください。
チェーン店で1店舗の出禁は全店に及びますか?
本部が方針を定め、店舗間で出禁情報を共有している場合もあれば、各店舗の判断に任せている場合もあります。
ただし、客の氏名や写真などを店舗間で共有する場合は、個人情報の取り扱いにも注意が必要です。
共有する目的や範囲を明確にし、本部のルールに沿って対応してください。
飲食店は出禁の判断基準と再来店時の対応を決めておこう
飲食店の出禁は、迷惑行為や営業への支障から店舗や従業員を守るために取られる対応のひとつです。
トラブルを防ぐためには、出禁とする理由や経緯を記録し、再来店時の対応を店内で決めておくことが大切です。
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