「飲食店経営は地獄」と言われる理由は、長時間労働や資金繰りの厳しさなどさまざまです。
こうした厳しさの多くは、売上や経費、手元資金などの数字から読み取れます。
この記事では、売上があるのに手元にお金が残らない理由を、5つに分けて解説します。
飲食店経営が地獄と言われるのはなぜ?
飲食店経営が「地獄」と言われる背景には、資金繰りだけでなく、休みにくさや店を閉める際の負担も関係しています。
ここでは、飲食店経営が厳しくなりやすい理由を3つに分けて解説します。
売上はあるのに現金が残らない
飲食店の売上、利益、手元資金は、それぞれ別の数字です。
これらを混同すると、経営状況を正しく把握しにくくなります。
食材や酒類は、掛けで仕入れて翌月に支払うケースが一般的です。
これに対して、キャッシュレス決済の売上は入金までに時間がかかる場合があります。
そのため、仕入れ代金の支払いが先に発生し、売上の入金が後になるケースも珍しくありません。
さらに、借入の元本返済は経費には計上されないものの、手元の現金は減っていきます。
こうした支払いと入金のタイミングのズレなどが、帳簿上は黒字でも口座残高が減る原因になります。
店を休むと売上が止まる
飲食店は、店を閉めればその日の売上がゼロになります。
その一方、休業しても家賃などの固定費は発生します。
そのため、体調を崩しても店を開けざるを得ないケースは少なくありません。
では、人を雇えば解決するかというと、そう単純ではありません。
スタッフを増やせば人件費もかかるため、売上が安定しないなかで採用に踏み切るのは難しいです。
結果として、経営者自身が現場に立ち続ける状況に陥ってしまいます。
撤退にも費用がかかる
経営が苦しくなっても、すぐに店を閉められるとは限りません。
飲食店を閉める際には、原状回復費や厨房機器のリース残債、借入金の返済など、さまざまな費用が発生します。
手元資金が少なくなってからでは、閉店に必要な費用を用意できず、撤退の判断がさらに難しくなります。
必要な金額は契約内容によって異なるため、賃貸借契約書やリース契約書の条件は、経営状況が悪化する前に確認しておきましょう。
飲食店が地獄に感じる5つの要因
飲食店経営の厳しさは、いくつかの数字から見えてきます。
特に確認しておきたいポイントを5つに絞って解説します。
FL比率
FLとは、食材原価(Food)と人件費(Labor)の合計を指します。
この合計が売上に対してどれくらいの割合かを見る指標がFL比率です。
飲食業界では、売上の60%以内に収めることが目安とされています。
これは法令や統計上の基準ではなく、あくまで経験則として共有されている水準です。
ただし、60%が目安とされているのには理由があります。
売上の60%をFLで使うと、残りは40%です。
FL比率が65%、70%と上がるにつれて、売上から残る割合は35%、30%と少なくなります。
その中から家賃や水道光熱費などを支払うため、借入金の返済に充てられる金額も減っていきます。
FLが上がる要因は主に3つです。
仕入れ値が上がったのに売価を据え置いた場合、廃棄やまかないが増えて実際に出た原価が想定を超えた場合、そして売上が落ちたのにシフトを削らなかった場合などがあげられます。
3つめは見落とされやすい要因です。
人件費の金額そのものは変わっていなくても、売上が下がれば人件費率は上がります。
FL比率は売上を基準に計算するため、売上の減少にも注意が必要です。
家賃と固定費
家賃やリース料などの固定費は、売上が減っても大きく変わりません。
そのため、固定費の負担が大きいほど、売上が落ちたときに資金繰りが厳しくなります。
家賃については売上に対する比率の目安もありますが、適正な水準は業態や立地によって異なります。
他店の数字だけを参考にするのではなく、売上が2割落ちた場合でも固定費を支払えるか、あらかじめ計算しておきましょう。
初期投資と回収期間
内装工事、厨房設備、保証金、什器など、開業には数百万円から、規模によっては数千万円がかかります。
そしてこの投資の回収は、月々の利益から少しずつしか進みません。
初期投資の回収期間を考える際は、売上が計画を下回った場合も想定しておく必要があります。
投資を回収しきる前に売上が下がると、回収にかかる期間は延びる一方で、借入の返済は続きます。
開業時の資金計画では、売上が計画を下回った場合の回収期間も試算しておきましょう。
客単価と席数の上限
飲食店の売上には上限があります。
その目安になるのが、席数×回転数×客単価です。
この3つを掛け合わせることで、その店舗で見込まれる売上の上限を計算できます。
10席の店で、ランチとディナーで合わせて3回転、客単価が2,000円だとすると、1日の売上上限は6万円です。
この計算をせずに開業すると、実際には見込めない売上を前提に資金計画を立ててしまうおそれがあります。
あらかじめ売上の上限を把握しておけば、家賃として支払える金額や、必要な回転数の目安も考えやすいです。
ただし、この金額は満席が続いた場合の理論上の売上です。
実際には天候や曜日、時間帯によって客数が変わるため、常に上限まで売上を伸ばせるとは限りません。
開業後は、理論上の売上に対して実際の売上がどの程度だったかを毎月確認しておきましょう。
実績を蓄積すると、翌月の売上を予測しやすくなり、仕入れ量やシフトも調整しやすくなります。
廃業率をどう読むか
中小企業庁の統計では、飲食サービス業は他業種と比べて開業率・廃業率ともに高いといわれています。
新しく開業する店が多い一方で、廃業する店も多い業種です。
ネット上では、「開業から数年で大半が廃業する」などの情報を目にすることがあります。
ただし、なかには出典が明確でない情報もあります。
廃業率を判断材料にする場合は、中小企業白書や経済センサス、信用調査会社の公表資料など、出典と調査年を確認できるデータを参考にしましょう。
また、廃業には資金繰りの悪化による閉店だけでなく、後継者不足や事業譲渡などによるケースも含まれます。
統計を見る際は、件数だけでなく、可能であれば廃業に至った理由や内訳まで確認することが大切です。
飲食店で失敗しやすい経営判断のパターン
ここからは、飲食店で失敗につながりやすい経営判断を解説します。
現在、当てはまっているものがあれば、早急に見直しましょう。
売上計画を「必要な額」から作ってしまう
生活費と借入返済から逆算して「月商これだけは必要」という数字を先に置くような計画では、売上の上限を確認する順番が後回しになっています。
先に出すべきなのは、その物件の席数と回転数と客単価から計算できる売上の上限です。
上限が必要額に届かないなら、物件や業態、価格設定を見直す必要があります。
必要な売上だけを基準に計画を立てると、実際には達成が難しい目標を設定してしまうおそれがあります。
原価をメニュー単位で把握していない
全体の原価率は毎月見ているのに、どのメニューが利益を生んでいるかは知らないという状態は珍しくありません。
出数が多い商品が、必ずしも利益に貢献しているとは限りません。
一方、出数は少ないが粗利の大きい商品が売上を支えている場合もあります。
経営判断を誤らないように、メニュー単位で原価を把握しましょう。
運転資金を初期投資に使い切る
開業費用に手元資金を使い切り、開店後の赤字に備える現金を残していないと、資金繰りが早い段階で厳しくなります。
開業直後から計画どおりの売上が立つことは、ほとんどありません。
売上が安定するまでの数か月を乗り切れるよう、必要な資金を金額と月数で見積もっておきましょう。
設備費を抑えてでも、開業後の運転資金を残しておいたほうがよい場合があります。
立地とコンセプトが噛み合っていない
家賃の安さだけで物件を選ぶと、想定していた客層が周辺に少なく、集客につながらないことがあります。
一方、人通りの多い一等地でも、客単価や店舗のコンセプトが地域のニーズと合っていなければ、十分な集客は見込めません。
家賃の安さだけでなく、その立地で見込める客単価や回転数も確認する必要があります。
時間帯ごとに現地に立って、実際に歩いている人を確認してください。
数字を見る日を作っていない
忙しさから月次の確認が後回しになり、2ヶ月前の数字を確認しているような状態では、経営状況の変化に気づくのも遅くなります。
売上や口座残高の悪化を早めに把握するためにも、定期的に数字を確認することが大切です。
月次だけでなく、週に一度、決まった曜日に確認する項目を作っておいてください。
売上、原価率、人件費、口座残高など、毎週同じ形で見るだけでも、早めに変化に気づくことができます。
値上げの判断を先送りする
仕入れ値が上がっても販売価格を据え置けば、原価率が上がり、利益は少なくなります。
常連客が離れることを心配して値上げを先送りすると、原価率が高い状態が続き、十分な利益を確保できなくなる可能性があります。
全品を一律で値上げする必要はありません。
原価率の高い商品から順に見直す、量や構成を変えて価格を保つ、単価の高い商品を一品増やして客単価を上げるなど、選択肢はあります。
長く続いている飲食店は何が違うのか
飲食店経営が厳しいなかでも、長く営業を続けている店はあります。
ここでは、経営を続けている店の特徴を紹介します。
小さく始めている
開業時に席数や店舗面積を抑えると、内装工事や厨房設備にかかる初期費用だけでなく、家賃などの固定費も抑えやすくなります。
売上の上限は低くなりますが、毎月必要になる支出が少なければ、売上が落ちた月の負担も軽いです。
最初から大きな店舗を構えるのではなく、無理なく運営できる規模から始め、売上や客数の動きを見ながら事業を広げていく方法もあります。
メニューを絞っている
メニュー数が多いほど、必要な食材や仕込みの種類が増え、在庫管理も複雑になります。
注文の少ない食材を抱えれば、廃棄につながる可能性もあります。
メニューを絞れば、仕込みや在庫管理にかかる手間を減らしやすく、調理や提供の流れも覚えやすいです。
スタッフへの教育もしやすくなるため、限られた人数で店舗を運営する場合にも負担を抑えやすくなります。
数字を月次で締めている
経営状況を把握するには、毎月の売上や経費をまとめ、利益がどれくらい残ったのかを確認する必要があります。
月次の集計が遅れると、原価率や人件費の上昇、利益の減少などに気づく時期も遅くなります。
会計ソフトを活用したり、顧問税理士に相談したりしながら、毎月決まった時期までに数字を確認する習慣をつけておくと、経営状況の変化にも早めに対応しやすいです。
一人で抱えていない
飲食店を経営していると、売上や資金繰り、人材採用など、一人では判断しにくい問題が出てきます。
すべてを自分だけで決めようとせず、必要に応じて専門家や支援機関に相談することも選択肢のひとつです。
商工会議所や商工会、各都道府県のよろず支援拠点では、経営に関する相談を受け付けています。
税務については税理士に相談するなど、内容に応じて相談先を使い分けることも大切です。
売上が落ちる月も想定している
飲食店の売上は、季節や天候、曜日などによって変動するため、年間を通して一定になるとは限りません。
繁忙期の売上だけを基準に資金計画を立てると、閑散期に固定費や借入金の返済が負担になります。
売上が少ない月でも必要な支払いを続けられるかを確認し、余裕がある月には現金を残しておくことが大切です。
売上の変動を前提に資金を管理することで、急な落ち込みにも対応しやすくなります。
飲食店を開業する前に考えておきたいこと
飲食店を開業するか迷っている場合は、勢いだけで決めるのではなく、売上や費用、開業方法などを具体的に確認しておくことが大切です。
ここでは、開業前に確認したい数字や、いきなり店舗を持たずに経験を積む方法、経営が厳しくなった場合の判断基準について解説します。
開業前に出しておく3つの数字
開業前に確認しておきたいのは、売上の上限、毎月の固定費、手元に残す運転資金の3つです。
売上の上限は、席数×回転数×客単価をもとに計算します。
そこから家賃やリース料など毎月発生する固定費を差し引き、どの程度の利益が残るかを確認しておきましょう。
あわせて、売上が安定するまで何か月分の運転資金が必要かを見積もっておくと、開業後の資金不足を防ぎやすいです。
必要な売上だけを先に決めるのではなく、実際に見込まれる売上と支出の両方から計画を立てることが大切です。
開業前に店舗運営を経験する方法もある
飲食店を始める方法は、最初から自分の店舗を構えるだけではありません。
他店で店長や料理長として働けば、仕入れ交渉や原価計算、スタッフ管理、シフト作成など、店舗運営に必要な業務を経験できます。
間借りやシェアキッチンを利用して、小さな規模から営業を始める方法もあります。
実際に店舗を運営する経験を積むことで、自分が考えている業態の客単価や必要な作業量も把握しやすいです。
開業資金を大きく投じる前に、経験を積む期間を設けることも検討してみましょう。
閉店を判断する基準も決めておく
開業前には、店を続ける条件だけでなく、経営が厳しくなった場合の対応も考えておく必要があります。
資金が少なくなってから閉店を検討すると、原状回復費や借入金の返済などに必要なお金を確保できないこともあります。
「手元資金が○ヶ月分を下回ったら見直す」など、経営を続けるかどうかの基準は、余裕のあるうちに決めておきましょう。
また、閉店だけでなく、店舗や事業を譲渡・売却する方法もあります。
経営状況が悪化してから慌てて判断しないためにも、利用できる方法や必要な費用をあらかじめ確認しておくことが大切です。
飲食店経営に関するよくある質問
飲食店経営についてよくある疑問を解説します。
飲食店の廃業率は本当に高いのですか?
飲食サービス業は、他業種と比べて開業率・廃業率ともに高い傾向があります。
ただし、ネット上で見かける具体的な廃業率のなかには、出典が明確でないものもあります。
数字を参考にする際は、中小企業白書や信用調査会社の公表資料など、出典と調査年を確認できるデータを参考にしてください。
飲食店経営に向いているのはどんな人ですか?
向き不向きは、性格だけでなく、日々の行動から考えることもできます。
たとえば、数字を定期的に確認する習慣があるか、必要に応じて人に仕事を任せられるか、無理なく休める働き方を考えられるかなどの点です。
こうした行動は、経験を重ねながら身につけていくこともできます。
FL比率は60%を超えたらすぐ危ないのですか?
FL比率が60%を超えたからといって、すぐに経営が行き詰まるわけではありません。
60%はあくまで飲食業界で目安とされている水準で、家賃などの固定費が低ければ、利益を確保できる場合もあります。
FL比率だけで判断せず、家賃をはじめとした固定費を含めて、売上に対する支出の割合を確認することが大切です。
そのうえで、借入金の返済に必要な資金を確保できるかも確認しておきましょう。
未経験でも開業できますか?
未経験からでも飲食店を開業することは可能です。
ただし、原価計算やシフト作成、仕入れ交渉、衛生管理などを事前に経験しておくと、開業後の店舗運営をイメージしやすくなります。
すぐに開業するのではなく、まずは飲食店で働きながら実務経験を積む方法もあります。
飲食店経営の厳しさは数字から見えてくる
飲食店経営では、売上だけでなく、FL比率や固定費、初期投資の回収、運転資金など、複数の数字を確認しながら経営を続ける必要があります。
売上の上限や毎月かかる費用を把握し、余裕のあるうちに資金計画や撤退の基準を決めておくことが大切です。
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