「迷惑行為」には、マナー違反にあたるものから、刑事事件になり得るものまであります。
ただし、店側に求められる対応は、迷惑行為の種類によって異なります。
声かけで済むのか、記録を残して警察への連絡を検討すべきなのかなど、判断基準が曖昧なまま現場に任せると、対処が遅れたり、必要以上に踏み込んだりしかねません。
この記事では、飲食店で起きる迷惑行為を種類に分けて整理し、その場でやること、あとからできること、起きにくくする対策を解説します。
飲食店で起きる迷惑行為の種類
迷惑行為をひとくくりにせず、まず種類で分けます。
種類が変われば、店が取るべき行動も、法的な扱いも変わります。
他の客への迷惑になる迷惑行為
閉店時間が近いのに長く居座る、大声で騒ぐ、一人で複数席を占有する、他の客が写り込む形で撮影するなどの行為は、周囲の客に不快感を与えたり、落ち着いて飲食できる環境を妨げたりします。
このケースの多くは、声をかけて店側が困る理由を伝え、必要に応じて退店をお願いする形で対応します。
ここで大切なのは、店として「何が困るのか」を具体的に伝えることです。
他の客の迷惑になる行為は、店の評判を悪化させる要因にもなるため、早急に対応しましょう。
店の設備・商品に対する迷惑行為
共用の調味料への異物混入、什器や食器の破損、提供前の食品に直接手を触れる行為などです。
こうした迷惑行為の様子がSNSに投稿され、「外食テロ」として報道されるケースもあります。
この種類の迷惑行為では、他の客への影響だけでなく、店側にも損害が生じます。
廃棄した食材や交換した備品、消毒・清掃にかかった人件費など、店側が負担する費用はさまざまです。
そのため、賠償を検討する場合に備えて、その場で記録を残しておくことが大切です。
従業員に向けられる迷惑行為
暴言、土下座や念書の強要、身体的な接触、特定のスタッフへの執拗な指名やつきまといなどは、店の売上ではなく、従業員個人の心身の安全にかかわる問題です。
「客商売だから」という理由で従業員に我慢させる考え方は、離職につながるだけでなく、従業員の安全を守るうえでも問題があります。
どこまでが接客で、どこからが受け入れない行為なのかの線引きは経営側が決めて、事前に共有しておくべきです。
近年はカスタマーハラスメントという言葉で、このケースが社会的にも問題視されるようになりました。
厚生労働省も企業向けの対策マニュアルを公開しています。
また、2026年10月1日からは、すべての事業主にカスタマーハラスメント対策が義務づけられます。
店の規模にかかわらず、対応方針や相談先、対応手順をあらかじめ決めておくことが大切です。
参考:厚生労働省|業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル (宅配業編)等を作成しました
支払いをめぐる迷惑行為
支払いをめぐる迷惑行為は、難癖をつけて代金を払わない、異物が入っていたと主張して金品を要求する、会計せずに退店するなど、金銭が絡むケースです。
原則として、金銭の要求に応じるかどうかを現場で判断させないようにしましょう。
その場で判断すると対応にばらつきが生じるため、責任者に確認するルールをあらかじめ決めておくとよいです。
異物が混入していたと申し出があった場合は、まず不快な思いをさせたことをお詫びし、異物混入の事実についてはその場で断定せず、現物を預かって日時や状況を記録します。
実際に混入があったのか、持ち込まれたものなのかは、その場では判断できない場合があります。
事実関係を確認したうえで、責任者から今後の対応を案内しましょう。
飲食店での迷惑行為はどの法律に触れるのか
迷惑行為の内容によっては、刑事上の責任や民事上の損害賠償が問題になる場合があります。
刑事と民事では対応の進め方が異なるため、それぞれ解説します。
刑事として問題になり得る迷惑行為
迷惑行為の内容によっては、暴行、傷害、脅迫、強要、窃盗、器物損壊、威力業務妨害、不退去などの罪に当たる可能性があります。
食品や共用備品への異物混入は、業務妨害や器物損壊が問題となる場合もあります。
ただし、実際にどの罪に当たるかは、行為の具体的な内容や経緯を踏まえた個別の判断が必要です。
どの罪に当たるかや刑事上の責任については、捜査機関や裁判所が個別に判断します。
民事の損害賠償
民法第709条では、故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害し、損害を与えた場合、賠償責任を負うと定められています。
迷惑行為によって店に損害が生じた場合は、不法行為にもとづく損害賠償を請求できる可能性があります。
損害としてあげられるのは、廃棄した食材や備品の代金、消毒・清掃にかかった人件費、営業停止によって生じた損失、客への告知や対応にかかった費用などです。
刑事事件になるかどうかとは別に、民事の請求も検討できます。
ただし請求できるかどうか、どこまで認められるかは事案によって異なるため、弁護士へ相談しましょう。
店には入店を断る権利があるか
店側は、法令に反しない範囲で、客の入店を断ることができます。
繰り返し迷惑行為をおこなう相手に対して、正当な理由があれば入店をお断りすることが可能です。
ただし、断り方や、その後に再来店されたときの対応には注意点があります。
迷惑行為への対策と現場対応の手順
迷惑行為が起きたときに現場が迷わず動けるよう、対応の手順をあらかじめ決めておくことが大切です。
ここでは、迷惑行為が発生した際に店側が取るべき対応を解説します。
安全を確保する
まずは他の客を迷惑行為から物理的に離すことが大切です。
迷惑行為への対応は、可能であれば二人以上で対応し、一人だけで対応する状況を避けましょう。
応援を呼ぶ基準も事前に決めておくと安心です。
「相手が声を荒らげたら」「相手が席を立って近づいてきたら」などの、誰でも同じように判断できる基準を決めておくことが大切です。
記録を残す
その日のうちに、日時、場所、行為の具体的な内容、対応した従業員の名前、目撃していた客の有無、防犯カメラの該当時刻を記録します。
あとから警察に相談する場合も、賠償を検討する場合も、こうした記録が大切です。
撮影や録音については、状況によって扱いが変わるため、店としてのルールを事前に定めておいてください。
現場で個々の判断に委ねる形は避けましょう。
警察に連絡する判断
暴力や物の破壊など、事件・事故が発生して緊急の対応が必要な場合は110番に通報します。
緊急性のない相談は、最寄りの警察署や警察相談専用電話「#9110」を利用できます。
大切なのは、従業員が「呼んでいいのか」と迷わずに済む状態をつくることです。
「この線を越えたら呼ぶ」という基準を店として決め、呼んだ従業員が責められないようにしましょう。
判断を個人に背負わせると、通報が遅れます。
現場で従業員に判断させない
値引きや返金、謝罪文の提出、念書への署名などは、現場で決めず、責任者に上げるルールを決めておきます。
とくに土下座や念書の要求には応じないことを、店としての基本方針にしておくとよいです。
応じるとその場が収まったように見えても、従業員の負担になります。
どこまで対応するかは、経営側や責任者があらかじめ方針を決めておきましょう。
飲食店の迷惑行為後にできる賠償請求と再発防止対策
迷惑行為が収まったあとも、店側には損害の確認や賠償請求、再発防止に向けた対応が残ります。
ここでは、発生後に確認しておきたいポイントを解説します。
損害の内容を確認する
まず、損害の内容と金額を確認しましょう。
廃棄した食材と備品の金額、消毒や清掃にかかった人件費、営業停止による損失を確認するための売上・利益の実績、客への告知や問い合わせ対応にかかった費用などを並べると、被害の全体像が見えます。
損害額とその根拠となる資料を整理しておくと、賠償請求や弁護士への相談を進めやすくなります。
請求を検討する
一般的には、相手を特定したうえで請求を通知し、示談交渉をおこない、まとまらなければ訴訟を検討します。
実際に請求できるか、どこまで認められるかは事案ごとに異なります。
損害の立証、相手の特定、費用対効果のいずれも検討が必要なため、早い段階で弁護士に相談するのがおすすめです。
実際にあった事例
実際に報道されている事例をいくつかあげます。
大手回転寿司チェーンで撮影された迷惑動画の事件では、共用の醤油差しをなめる様子がSNSに投稿され、運営会社が多額の損害賠償を求めて提訴しました。
運営会社は少年に約6,700万円の損害賠償を求めて提訴しましたが、その後、調停が成立し、訴えは取り下げられています。
損害の内容としては、共用備品の廃棄や店舗の消毒にかかった費用、対応にあたった従業員の人件費などです。
同じ時期には他のチェーンでも同種の動画が相次ぎ、刑事事件として立件された事案も報じられました。
従業員のケア
迷惑行為に対応した従業員が、翌日から何事もなかったように働けない可能性もあります。
とくに暴言や身体的な接触があった場合は、本人が平気だと言っていても、負担が残っているものです。
上司への報告経路を明確にしておくこと、しばらく同じ時間帯のシフトを避けること、必要に応じて外部の相談窓口を案内できるようにすることなどの対策を用意しておくと、従業員が一人で抱え込む状況を防げます。
飲食店での迷惑行為を起こりにくくするためには
迷惑行為の再発を防止するための対策を紹介します。
店内の掲示とルールの共有
利用時間の上限、店内撮影の可否、飲食物の持ち込み、団体利用の条件などをあらかじめ掲示しておくと、ルールに反する行為があった際にも店側から注意しやすいです。
「書いてあるので」と伝えられる状態と、その場で初めて伝える状態では、相手の受け止め方が違います。
掲示は防止策であると同時に、対応する従業員を守る手段でもあります。
設備と配置
防犯カメラの設置位置と録画の保存期間を確認しておいてください。
必要な映像を確認する前に、保存期間を過ぎてしまう場合があります。
共用の調味料は、個包装への切り替えや、注文ごとの提供に変えるという選択肢もあります。
レジ周りの動線も、現金や貴重品が客側から手の届く配置になっていないか見直しましょう。
従業員教育とマニュアル
誰が判断するか、どこに連絡するか、何を記録するかを、ひとつにまとめて共有します。
すぐに確認できるようにしておくと、いざという時に現場で活用できます。
また、ロールプレイで対応を練習しておくと、実際の場面でも対応しやすいです。
新人が入るたびに全員で時間を取るのが難しければ、朝礼で5分だけ一場面を扱う形でも構いません。
迷惑行為が起きたときに迷わず動けるよう、対応手順を日頃から共有しておくことが大切です。
飲食店の迷惑行為に関するよくある質問
飲食店の迷惑行為に関するよくある疑問を解説します。
迷惑行為をした客に損害賠償を請求できますか?
不法行為にもとづいて請求できる可能性があります。
ただし、相手を特定できること、損害の内容と金額を資料で示すことが必要です。
実際に請求が認められるかどうか、費用に見合うかどうかは事案によって異なるため、弁護士に相談したうえで判断してください。
まずは損害の記録を残すことが大切です。
迷惑行為の動画をSNSに投稿されました。どうすればいいですか?
まず投稿内容を保存し、URL、投稿日時、画面の記録を残します。
そのうえで、プラットフォームの窓口へ削除の申請をおこないます。
相手の特定が必要な場合は、手続きに時間がかかるため早めに弁護士へ相談してください。
店として公表するかどうかは、影響の範囲を見て慎重に判断しましょう。
従業員が対応してよい範囲はどこまでですか?
従業員が対応する範囲は、安全確保や状況の記録、責任者への報告までを基本とします。
値引きや返金、謝罪の可否、念書への対応など、店側の判断が必要な事項は責任者に確認しましょう。
対応できる範囲をあらかじめ決めておけば、従業員もその場で判断を抱え込まずに済みます。
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飲食店で起こる迷惑行為には、他の客への迷惑行為や設備・商品への被害、従業員への暴言やつきまとい、支払いをめぐるトラブルなどがあります。
被害を広げないためには、現場での対応範囲や警察へ連絡する基準を決め、記録や報告の手順をあらかじめ共有しておくことが大切です。
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