飲食店で使われる「ワンオペ」という言葉には、実は2つの意味があります。
ひとつは、店主が自分の店を一人で回している形です。
もうひとつは、雇われた従業員が一人で店番を任されている形です。
前者は自分の裁量で決める経営判断ですが、後者では休憩や安全配慮など、労務上の問題が生じる可能性があります。
同じワンオペでも、店主と従業員では責任の範囲が異なる点に注意が必要です。
この記事では、この二つを切り分けたうえで、法律の線引き、限界のサインの見分け方、一人で成立させるためのメニューと動線の設計までを解説します。
飲食店のワンオペとは?
同じ「ワンオペ」でも、責任の所在と法的な扱いは異なります。
まずはその違いを解説します。
店主が一人で回すケース
店主が自分の店を一人で営業する場合、営業時間、席数、メニュー、定休日を自分の裁量で決められるため、忙しさに応じて営業内容を調整できます。
人件費を抑えられるぶんFLコスト(食材費と人件費の合計)も抑えやすく、小規模な店舗でも利益を確保しやすいです。
ただし、売上が自分の稼働時間に左右されやすい点には注意が必要です。
体調を崩した日や家族の用事が入った日は、営業できず売上が発生しないこともあります。
休業による影響が大きいため、休みを取りづらくなる場合があります。
従業員に一人で任せるケース
雇っているスタッフに、一人で店を任せるワンオペもあります。
休憩を実際に取れる状態になっているか、急病や事故が起きたときに代われる人がいるか、売上金を一人で管理するリスクへの対策があるかなどを確認しておくことが大切です。
このような対応方法は、店側であらかじめ決めておきましょう。
人手が足りないという事情があっても、労働基準法上の義務が免除されるわけではありません。
なぜワンオペ店が増えているのか
ワンオペが増えている背景には、採用の難しさや人件費の上昇などがあります。
募集をかけても応募が集まらず、結果として一人で回さざるを得なくなっている店は少なくありません。
最低賃金の引き上げなど、人件費の負担増を受けて、少ない人数で営業する店もあります。
つまりワンオペは、積極的に選ばれた戦略ではなく、やむを得ず増えている面もあります。
そのため、一人で営業できる体制が整っているのか、人手不足によって一時的に一人になっているのかを見極めることが大切です。
飲食店のワンオペは違法?休憩と安全配慮の線引き
ワンオペという営業形態そのものを禁じる法律はありません。
休憩や安全面への配慮など、問題になりやすい点を解説します。
ワンオペ自体を禁止する法律はない
ワンオペで営業すること自体について、特別な許可や届出が必要になるわけではありません。
また、従業員を一人だけ配置したからといって、直ちに違法になるとは限りません。
問題になるのはワンオペという形そのものではなく、休憩を適切に取れているかなど、実際の勤務状況です。
休憩時間のルール
労働基準法第34条では、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を、労働時間の途中に与えなければならないと定められています。
休憩時間は、仕事から離れて自由に過ごせる時間として確保する必要があります。
ただ、一人勤務ではこの休憩を取りにくいのが実際です。
店内にスタッフが一人しかいなければ、来客のたびに接客へ戻らなければなりません。
「客が来なければ休んでいい」という状態では、完全な休憩とは認められない可能性があります。
休憩として記録されていても実際には接客や調理をしている場合は、労働時間の管理にも問題が生じます。
ワンオペでは、こうした休憩を確保できない状態に注意が必要です。
参考:厚生労働省|労働時間・休憩・休日関係
ワンオペは安全面にも注意する
雇う側には、従業員が安全に働けるよう配慮する義務があります。
深夜に一人で勤務させたり、体調を崩しても交代できる人がいなかったりする場合は、安全面で問題となる可能性があります。
厨房では火気や刃物を扱うため、やけどや切創などの事故にも注意が必要です。
万が一のときにすぐ助けを呼べる体制があるか、あらかじめ確認しておきましょう。
また、深夜の一人勤務では、現金を扱う際の防犯対策も必要です。
ワンオペで問題が生じた場合の対処法
ワンオペ勤務で休憩が取れない場合や、業務負担が過重・安全面に不安がある状態が続く場合は、まず勤務状況を記録しておきましょう。
出勤・退勤の時刻や休憩を取れなかった日、当日の来客状況などを残しておくと、あとから状況を説明しやすくなります。
記録はスマートフォンのメモなどでも構いません。
記録を残したうえで、まずは店長やオーナーに勤務体制の改善を相談します。
相談しても状況が変わらない場合は、各都道府県労働局の総合労働相談コーナーや、所轄の労働基準監督署に相談する方法があります。
ワンオペ勤務が違法にあたるかどうかは、休憩の取得状況や実際の勤務内容によって判断が異なります。
判断に迷う場合は、労働基準監督署や弁護士などの専門窓口に相談してください。
飲食店のワンオペの限界はどこにある?
「ワンオペがつらい」という感覚だけでは、店側も本人も判断に迷うことがあります。
休憩の取得状況やミスの頻度など、実際に確認できる事実をもとに判断しましょう。
席数と客数から見る目安
小規模店・個人店では、10席前後をひとつの目安とする考え方があります。
ただしこれは法令や統計にもとづく基準ではありません。
あくまで一例であり、実際に一人で対応できる客数は業態やメニューによって異なります。
酒類を提供する店では、調理の途中にドリンクの追加注文への対応も増えます。
一人で対応できるかどうかを考える際は、席数だけでなく、ピーク時にいくつの注文を同時に進める必要があるかも確認しておきましょう。
限界が出ているサイン
ワンオペの限界が近づいているかどうかは、日々の勤務状況から確認できます。
たとえば、次のような状態が続いている場合は、勤務体制や営業方法の見直しを検討しましょう。
- 必要な休憩をほとんど取れていない
- オーダーの取り違えや会計ミスが増えている
- 閉店後の作業時間が長くなっている
- 仕込みが間に合わず、開店直前まで作業が続いている
こうした状態は、一人で対応できる業務量を超えているサインの可能性があります。
無理に続けるのではなく、業務量や人員体制を見直すことが大切です。
サインが出たときの対処法
ワンオペの負担を減らすには人手を増やす方法がありますが、採用には時間や費用がかかります。
すぐに人員を確保できない場合は、営業方法を見直すのもひとつの方法です。
たとえば、営業時間を短くする、来客の少ない時間帯は店を閉める、提供するメニューを絞るといった方法があります。
売上が一時的に減る可能性はありますが、営業時間や業務量を減らすことで、一人でも無理なく営業しやすくなります。
見直す際は売上だけでなく、営業時間に対してどの程度の利益が残っているかも確認しましょう。
飲食店をワンオペで回すためのメニューと動線の工夫
ワンオペで無理なく営業するには、一人でも対応しやすいメニューや動線に整えておくことが大切です。
メニューを絞る
ワンオペの負担を減らすのに効果的なのが、メニューを絞ることです。
品数を減らすと、仕込み時間、在庫、オペレーションの複雑さが軽くなります。
問題は「何を残すか」の判断です。
ここを感覚で決めると、売上を支えていた商品まで外してしまう可能性があります。
判断は売上と粗利のデータでおこなってください。
一人でも進めやすい調理工程
一人で営業する場合は、複数の作業を同時に進めなくても済むようにすると負担を減らせます。
一例を挙げると、複数の火口を同時に使うメニューを減らし、注文から提供までの工程数をできるだけ揃えます。
作り置きできるものと、注文後に調理するものを分ける方法もあります。
作り置きをする場合は、保存時間や温度管理にも注意が必要です。
店のルールや保健所の指導を確認し、適切に管理しましょう。
セルフサービスを取り入れる
券売機やモバイルオーダー、セルフサービスの水やおしぼり、キャッシュレス決済などを取り入れる方法があります。
注文や会計の一部をセルフサービスにすると、スタッフの作業を減らせます。
一方、接客の密度は下がります。
常連との会話を大切にしている店では、セルフサービスを増やしすぎると接客の良さが失われることがあります。
注文や会計を効率化しつつ、接客を残したい場面も考えておきましょう。
予約・電話・問い合わせの対策
ワンオペでは、調理中の電話対応が負担になりやすいです。
電話に出ると調理の手が止まり、出られない場合は予約や問い合わせの機会を逃すこともあります。
予約をネット受付に集約する、電話の受付時間を限定する、留守番電話で用件を受けて折り返すなどの対処法があります。
こうした方法を取り入れると、忙しい時間帯でも調理や接客を中断する場面を減らせます。
飲食店がワンオペで売上を確保するポイント
一人営業では席数や回転数を増やしにくいため、客単価や原価とのバランスを考える必要があります。
人件費が下がる分をどこに置くか
ワンオペのメリットは、人件費を抑えやすいことです。
一方で、その分を値下げに回すと価格競争につながりやすく、一人で営業する負担に見合った利益を確保しにくくなることがあります。
抑えた人件費は、食材の品質向上に充てたり、立地や休業日の確保に活用したりする方法もあります。
値下げだけでなく、店の運営や働きやすさに活かすことも考えてみましょう。
客単価を上げる工夫
客単価を上げるためには、セットメニューを用意したり、ドリンクを提案したり、テイクアウトや物販を取り入れたりする方法があります。
ワンオペでは接客の回数が限られるため、注文時に追加の商品を案内することも、客単価を上げる方法のひとつです。
おすすめを口頭で案内したい場合は、忙しい時間帯でも接客に時間を使えるよう、作業内容を見直しておきましょう。
営業日・営業時間の見直し
売上を上げるためには、定休日を確保し、そのうえで売上や利益が見込める時間帯を中心に営業します。
休みを削って営業日を増やすと、店主の負担が大きくなり、長く続けにくくなることもあります。
無理をして体調を崩せば営業できず、その日の売上にも影響が出るため注意が必要です。
無理なく営業を続けるには、あらかじめ定休日を設けて休めるようにしておくことが大切です。
飲食店をワンオペのまま続けるべきか、体制を変えるべきか
ワンオペでの営業が難しくなってきた場合は、人員を増やすだけでなく、席数や営業日を見直す方法もあります。
雇用側と従業員、それぞれの立場で考えられる対応を紹介します。
人手を増やす場合
いきなり常勤を採用する必要はありません。
たとえば、ピーク帯だけ短時間勤務のスタッフを入れたり、仕込みや洗い場、清掃だけを担当してもらう方法があります。
家族に手伝ってもらう場合は、誰が何を担当するのか、最終的な判断を誰がするのかをあらかじめ決めておきましょう。
夫婦や家族で店を回す場合の関係性については、別記事で詳しく扱っています。
従業員としてワンオペを続けるのが難しい場合
従業員としてワンオペを任されている場合は、自分だけで勤務体制を変えるのは難しいです。
休憩を取れるよう改善を求めても状況が変わらない、人員の補充を相談しても対応されないなどの状態が続く場合は、今の職場で働き続けるかどうかを考える必要があります。
無理な勤務を続けて体調を崩すと、飲食の仕事そのものを続けにくくなることもあります。
職場での改善が難しい場合は、人員体制の整った環境へ移ることも選択肢のひとつです。
応募先を選ぶ際は、シフトの人数や休憩の取り方について面接で確認しておくとよいです。
飲食店のワンオペに関するよくある質問
飲食店のワンオペに関するよくある質問とその回答を紹介します。
ワンオペで休憩が取れないのは違法ですか?
休憩時間として記録されているのに実際には接客や調理をしていた、という状態が続いていれば、休憩を与えていないことになり問題になります。
まずは出退勤時刻と休憩の取得状況を記録に残してください。
そのうえで、個別の判断については労働基準監督署や弁護士などの専門窓口に相談することをおすすめします。
何席までなら一人で回せますか?
10席前後が目安として語られることがありますが、業態によって変わります。
席数だけでなく、ピーク時に何品の料理を同時に用意する必要があるかも確認しましょう。
複数の料理を同時に仕上げる場面が多いほど、一人での対応は難しくなります。
注文から提供までの作業が少ないメニューであれば、席数が同じでも負担を抑えやすくなります。
ワンオペの店でアルバイトを始めても大丈夫ですか?
休憩の取り方、急病やトラブル時の連絡体制、売上金の取り扱いルール、一人で勤務するまでの教育体制を確認しておきましょう。
この4点が曖昧な店は、入ってから負担が集中しやすい可能性があります。
面接の際に確認しておくと安心です。
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飲食店のワンオペは、一人で営業すること自体が直ちに違法となるわけではありません。
ただし、従業員が一人で勤務する場合は、休憩を適切に取れる体制や、急病・トラブル時の対応方法などを整える必要があります。
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