飲食店の雇用契約書は、時給や勤務時間、担当業務など、店舗とスタッフが合意した内容を記録する書類です。
作成自体は法律上の義務ではありませんが、賃金や労働時間など、法律で定められた項目は書面などで明示する義務があります。
スタッフを採用する際に、どの書類を用意し、シフトやまかない代などをどう記載すればよいのか迷う方もいるかもしれません。
そこでこの記事では、雇用契約書と労働条件通知書の違い、必要な記載項目、記入例、雇用時の注意点を解説します。
新たにスタッフを雇用する予定のオーナーは参考にしてください。
飲食店に雇用契約書は必要?労働条件通知書との違い

雇用契約書と労働条件通知書は、役割や法律上の扱いが異なる書類です。
それぞれの作成・交付に関する義務と、ひとつの書面で兼用する場合の扱いを解説します。
雇用契約書の作成は法律上の義務ではない
雇用契約書の作成は、法律上の義務ではありません。
労働契約は、スタッフが店舗の指示に従って働き、店舗が賃金を支払うことに双方が合意すれば成立します。
ただし、口頭でのやり取りだけでは、採用時に約束した時給や勤務日数の認識が食い違っても、合意内容を確認できる記録が残りません。
労働条件の明示義務を果たしたうえで、双方が合意した内容も書面に残しておきましょう。
労働条件の書面明示は義務で、違反すると罰則の対象になる
労働基準法15条では、労働契約を結ぶ際に労働条件を明示し、賃金や労働時間などの法定事項を記載した書面を交付するよう使用者に義務づけています。
この義務への違反は、30万円以下の罰金の対象です。
正社員だけでなく、週1日のアルバイトや1日だけ雇うスタッフにも適用されます。
有期契約を更新する際も、労働条件の明示が必要です。
本人が希望した場合はメールやSNSなどでも明示できますが、本人宛てに送信し、内容を書面として印刷できる方法を選びましょう。
労働条件通知書と雇用契約書は兼用できる
必要な明示事項と合意内容を記載すれば、労働条件通知書と雇用契約書をひとつの書面にまとめられます。
両者の主な違いは、以下のとおりです。
項目 | 労働条件通知書 | 雇用契約書 |
法律上の義務 | 法定の労働条件を書面等で明示する義務あり(労働基準法15条) | 契約書の作成義務なし |
署名・押印 | 不要 | 契約成立に必須ではないが、合意内容の記録として署名等を残す |
役割 | 店舗からスタッフへ労働条件を伝える | 店舗とスタッフが合意した労働条件を記録する |
兼用する場合は、「労働条件通知書兼雇用契約書」などの表題を付け、記載内容を双方で確認して署名するなど、合意したことが分かる形にしましょう。
書面は店舗で保管するとともに、スタッフ本人にも交付します。
飲食店で起こる労働条件をめぐるトラブル

労働条件の説明が曖昧なままだと、時給や勤務時間、担当業務などをめぐってトラブルになるおそれがあります。
店舗とスタッフの間で認識が食い違う場面の例は、以下のとおりです。
- 面接で説明した時給と、実際に支払われた時給が違う
- 店舗の都合で早上がりを指示し、その日の賃金の扱いで認識が食い違う
- 閉店後の片付けにかかった時間が、労働時間として扱われない
- 採用時に説明していなかった業務を任せ、担当範囲などの意見が食い違う
店舗の都合で確定済みのシフトを短縮する場合などは、休業手当の支払いが必要か確認しましょう。
使用者の責任による休業では、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務があります。
1日の一部を休業し、その日の実働分の賃金が平均賃金の60%に満たない場合は、その差額の支払いが必要です。
また、店舗の指示でおこなう閉店後の片付けも労働時間に含まれるため、実際の終業時刻も記録します。
労働条件を書面に残すだけでなく、実際の勤怠管理や給与計算が契約内容や法令に沿っているかも確認しましょう。
参考:労働基準法26条
飲食店の雇用契約書に記載すべき項目

労働条件には、必ず明示する項目と、制度や定めがある場合に明示する項目があります。
それぞれの内容と、書面に記載する際の注意点を解説します。
必ず明示する絶対的明示事項
絶対的明示事項とは、労働契約を結ぶ際に必ず明示する労働条件です。
主な項目は以下のとおりです。
項目 | 主な内容 |
契約期間 | 期間の定めの有無、有期の場合はその期間 |
契約更新 | 有期契約の更新の有無、更新する場合の判断基準、更新上限の有無と内容 |
就業場所・業務 | 雇い入れ直後の勤務場所・担当業務と、それぞれの変更の範囲 |
労働時間・休日 | 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日・休暇、交替勤務のルール |
賃金 | 基本給や手当などの決定・計算・支払方法、賃金の締日・支払日 |
退職 | 退職の手続き、解雇の事由 |
昇給 | 昇給の有無や条件、時期 |
このうち昇給を除く項目は、書面等で明示しなければなりません。
ただし、パートタイム労働者や有期雇用労働者には、パートタイム・有期雇用労働法により、昇給の有無も文書等で示す義務があります。
早番・遅番などの交替勤務を設ける場合は、各勤務時間帯だけでなく、交替の順序や周期などのルールも記載しましょう。
また、同じ使用者との有期契約が更新され、通算契約期間が5年を超える場合には、期間の定めがない契約への転換を申し込める「無期転換申込権」が生じます。
この権利が発生する契約の更新時には、無期転換を申し込めることと、転換後の労働条件の明示も必要です。
その後も申込権がある有期契約を更新する場合は、更新のたびに明示しましょう。
参考:労働基準法施行規則5条
定めがある場合に明示する相対的明示事項
相対的明示事項は、店舗に制度や定めがある場合に明示する項目です。
退職手当、賞与、食費や作業用品の負担、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰・制裁、休職などが該当します。
労働基準法上は口頭での明示も可能ですが、支給条件や費用の負担額などをあとから確認できるよう、書面に残しておきましょう。
飲食店では、まかない代や制服代をスタッフに負担してもらう場合が該当します。
これらの費用を給与から控除する場合は、費用負担の根拠となる合意や規定に加え、原則として賃金控除の労使協定が必要です。
協定は、スタッフの過半数で組織する労働組合があればその組合と、なければスタッフの過半数を代表する者と書面で結びます。
契約書に費用負担を記載するだけでは、給与から控除するための要件を満たしません。
飲食店の雇用契約書の書き方と項目別の記入例

労働条件は、店舗の営業形態や実際に任せる業務に合わせて記載します。
項目ごとの書き方と記入例を紹介します。
契約期間・更新の基準・試用期間
記入例
- 契約期間:2026年11月1日〜2027年4月30日
- 更新の有無:更新する場合があり得る
- 更新の基準:契約期間満了時の業務量、勤務成績・態度、能力、店舗の経営状況により判断する
- 更新上限:なし
- 試用期間:入社日から1ヶ月間。期間中の労働条件は本採用後と同じ。
契約期間の欄には、期間の定めがあるかどうかを記載しましょう。
アルバイトも、期間の定めがない契約と有期契約のどちらでも雇用できます。
労働基準法14条によると、有期契約を選ぶ場合、1回の契約期間は原則として最長3年です。
開始日と終了日を記載し、更新する可能性がある場合は、更新の判断基準や上限も明記しましょう。
試用期間を設ける場合は、その期間と、試用期間中に異なる労働条件を記載します。
時給を通常より低く設定する場合も、原則として最低賃金以上にする必要があります。
就業場所・業務内容と変更の範囲
記入例:勤務場所は変更せず、将来キッチン補助を任せる場合
- 就業場所(雇い入れ直後):○○店(所在地:○○県○○市○○)
- 就業場所(変更の範囲):変更なし
- 業務内容(雇い入れ直後):接客、配膳、会計、ホールの清掃、開店・閉店作業
- 業務内容(変更の範囲):上記業務およびキッチン補助
就業場所と業務内容は、雇い入れ直後の内容と、将来変更する可能性がある範囲を分けて記載します。
就業場所には店舗名と住所、業務内容には接客、配膳、清掃など、実際に任せる仕事を具体的に書きましょう。
変更の範囲は、異動や業務変更など合意する内容に合わせて定めます。
勤務場所や担当業務を変更しない契約であれば、それぞれの欄に「変更なし」と記載します。
シフト制の勤務時間・休憩・休日
記入例
- 始業・終業時刻:10:00〜23:00のうち、実働8時間以内でシフトにより定める
- 勤務時間の例:早番10:00〜15:00/遅番17:00〜22:00
- 休憩:実労働時間が6時間以下の場合はなし、6時間を超え8時間以下の場合は45分、8時間を超える場合は60分を勤務の途中に与える
- 休日:毎週2日以上とし、具体的な日はシフト表で定める
- 所定時間外労働:あり
- 年次有給休暇:法定どおり付与する
- シフトの決定方法:スタッフは毎月15日までに翌月の勤務希望を提出する。店舗は希望を確認し、毎月20日までに翌月分のシフト表を作成して通知する
- 確定後のシフト変更:店舗と本人が合意したうえでおこなう
シフト制では、基本となる始業・終業時刻と、シフトの作成・通知方法を記載しましょう。
契約時点ですでに勤務日時が決まっている場合は、その日時を明示するか、基本となる時刻を記載した書面と確定済みのシフト表を交付するなどの対応が必要です。
勤務日数や時間数の目安、希望の提出期限、確定後の変更方法も事前に決めておきます。
休憩は、労働時間が6時間を超える場合に45分以上、8時間を超える場合に60分以上を、勤務の途中で与える必要があります。
休日の法定基準は、毎週1日以上、または起算日を定めた4週間で4日以上です。
これらの基準を満たすように、自店の休憩・休日のルールを記載しましょう。
なお、18歳未満のスタッフは、原則として22時から翌5時まで働けません。
閉店後の片付けも含め、勤務が22時を超えないようにシフトを組みましょう。
賃金・割増賃金
記入例:時給制で固定残業代を設けない場合
- 基本時給:○○円
- 割増率:法定時間外労働25%、月60時間を超える部分50%、法定休日労働35%、深夜労働25%。深夜労働と重なる場合は、それぞれの割増率を加算する。
- 賃金締日:毎月末日
- 支払日:翌月25日
- 支払方法:本人の同意を得て、本人名義の指定口座へ振り込む
賃金の欄には、基本給や手当の金額、計算方法、締日、支払日、支払方法などを記載します。
時給は、店舗の所在地に適用される最低賃金以上に設定しましょう。
残業や休日・深夜の勤務に対する割増賃金も、スタッフが支払条件を確認できるよう、種類ごとの割増率を記載する必要があります。
記載する際の基準となる法定の割増率は、以下のとおりです。
割増の種類 | 割増率 |
法定時間外労働(月60時間以内の部分) | 25%以上 |
法定時間外労働(月60時間を超える部分) | 50%以上 |
法定休日労働 | 35%以上 |
深夜労働(22時〜翌5時) | 25%以上 |
法定時間外労働や法定休日労働が深夜に及ぶ場合は、深夜労働の割増分も加算します。
固定残業代を設ける場合は、通常の賃金と区別できるよう、以下の内容も明示しましょう。
- 固定残業代を除く基本給
- 固定残業代の対象となる労働の種類、時間数、金額
- 実際の労働に対して計算した割増賃金が固定残業代を上回る場合に、差額を支払う旨
給与を口座振込で支払う場合は、本人の同意が必要です。
参考:厚生労働省|地域別最低賃金の全国一覧参考:労働基準法第37条
退職手続き・解雇事由
退職の欄には、自己都合退職の申出先や手続き、定年の有無、解雇事由などを記載しましょう。
解雇事由は「店舗が必要と認めた場合」などの曖昧な表現を避け、どのような場合を指すのか具体的に示します。
ただし、契約書に記載した理由に当てはまっても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効です。
解雇する場合は、原則として30日前までに予告し、予告期間が不足する場合は不足日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払います。
有期契約の期間途中で解雇するには、やむを得ない事由が必要です。
契約書の記載だけで判断せず、解雇を検討する際は、理由や手続きが法令に沿っているか確認しましょう。
飲食店でスタッフと契約を結ぶ際の注意点

スタッフと契約を結ぶ際は、雇用形態に応じた明示事項や、働き方に合った契約内容の確認が必要です。
雇用時の追加の明示事項や、業務委託として契約する際の注意点を解説します。
パートタイム・有期雇用では追加の明示事項を確認する
パートタイム労働者や有期雇用労働者には、通常の労働条件に加え、以下の事項を文書等で明示する義務があります。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 相談窓口
- 正社員との待遇差の内容や理由など、説明を求められる旨
雇い入れ時だけでなく、契約更新時も明示の対象です。
昇給・退職手当・賞与の制度がなければ「なし」と記載し、相談窓口は担当者や連絡先を具体的に示しましょう。
対象者は「アルバイト」などの呼称ではなく、同じ事業所の通常の労働者より週の所定労働時間が短いか、契約期間の定めがあるかで確認しましょう。
明示義務への違反は、10万円以下の過料の対象です。
スナック・バーなどでは業務委託と雇用の区別に注意する
スナックやバーなどで業務委託契約を結ぶ場合も、労働者に該当するかどうかは、契約の名称ではなく働き方の実態で判断されます。
判断する際は、以下を総合的に確認しましょう。
- 勤務時間や働く場所を店舗が指定しているか
- 業務の進め方など店舗が指示・監督しているか
- 本人が仕事の依頼を断れるか
- 報酬が働いた時間などに応じて支払われているか
労働者に該当する場合は、業務委託という名称で契約していても、労働条件の明示や最低賃金、割増賃金などのルールに従う必要があります。
契約を結ぶ前に、実際に任せる仕事や勤務方法を確認し、実態に合った契約内容にしましょう。
飲食店の雇用契約書を整えて労働条件を明確にしよう

飲食店の雇用契約書には、賃金や勤務時間、担当業務など、店舗とスタッフが合意した労働条件を記載します。
作成自体は任意ですが、法律で定められた労働条件の書面等による明示は義務です。
まずは自店の書式を確認し、必要な記載項目に漏れがないか、実際の勤務条件と食い違っていないかを確かめましょう。
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